こども基本法が施行され、学校教育においても子どもの権利を尊重することの機運が高まっています。
「権利主体」としての子ども観は、子どもを大切にする学級経営につながります。
この記事では、子どもの権利を大切にする学級経営の視点をお伝えしていきます。
子どもに関する側面
こども基本法は、心身の発達の過程にあるすべてのこどもの人権と権利を保障する日本で初めての法律です。
「教育振興基本計画(第4期)」や『生徒指導提要(改訂版)』(文部科学省, 2022)に、子供の権利等の理解促進についての文言が明示されており、子どもが権利の主体であることを前提にした教職員の指導観が求められています。
こうした動向をふまえつつ、「子ども」に関して改めて考えてみると
①子どもは人間であり(普遍性)
→人間として誰もがもっている基本的人権
②子どもは子どもであり(固有性)
→子どもは未成熟であり、子どもとして守られ、保護される存在(生存権)
③子どもは大人になります(成長性・発達性)
→大人へと成長・発達することが保障される権利(学習と参加の権利)

なお、「児童の権利に関する条約」(以下、「子どもの権利条約」と表記)では、
子どもも権利の主人公(主体)として認められ、大人は、子どもを一人の人間として、子どもの気持ちや思いを大切にしなければならないことを定めています。
そして、権利とは・・・
「人が人間らしくありのままに生きるために、生まれながらに約束されているもの」です。
子どもの権利条約と学級経営
長い歴史のなかで、理不尽で不合理な現実にあらがい、そして考え、人間がつくりだしてきたのが「人権」という基準であり、ルールです。
とても大切な、誰もが守らなければならないルールです。
「人権」は世の中にあるさまざまな問題を捉え、その解決に向けて考え、自分や他者の人権を守るためのアプローチのしかたであるともいえるでしょう
ただし、人権は無制限に認められるものではありません。他者の人権とぶつかり、それを侵害してしまうとき、人権は制限を受けます。
つまり、他の人の人権を侵害する権利は認められません。 そうした場合、あくまで具体的な状況に応じて、いわば分析的に考えることが大切です。

子供の権利を尊重するためには、子ども同士や子どもと大人がお互いを大切にすることも大切なことです。
こうした自他の尊重に向けて、あたりまえだけど大切なことや、きまりごとを学級経営の際に、教師が子供たちに教えていくことが大切です。
なお、道徳科の学習指導要領解説の内容項目に「規則の尊重」の説明として、以下のような見解が述べられている。
「法やきまりが、個人や集団が安全にかつ安心して生活できるようにするためにあることを理解し、それを進んで守り、自他の権利を尊重するとともに義務を果たそうとする精神をしっかりと身に付けるように指導する必要がある」(文部科学省, 2017:50)
子どもの主張を何でも容認することが、子どもの権利を尊重するということではありません。
自他の尊厳をないがしろにしたり、否定したりすることは、人間として他者と共によりよく生きることにつながりません。
教師は子どもたちの尊厳を傷つけてはならないし、子どもたちも周りのクラスメイトや教師の尊厳を傷つけてはなりません。
他者とよりよく生きるためには、学級経営の際に自他の尊厳について正しく理解し、これを相互に承認することを意識していくことが大切です(基本的人権の尊重)。
学級で教えたい大切なこと
①礼儀正しい言葉をつかう
礼儀は相手の人格を尊重し、相手に対して敬愛する気持ちを具体的に示すことであり、心と形が一体となってそのよさが認められるものです(道徳科 内容項目B 礼儀)。
「わたしは○○したいと考えています。」というように丁寧な言葉をつかうことを学級経営の際に子どもたちに指導し、きまりごとにすることは大切なことです。
礼儀正しい受け答えをする能力を身に付けることは、子どもたちが社会で生きていくために役立ちます。
そして、礼儀正しい受け答えは、相手を認めることや自分の意見を表明し、やりたいことを成し遂げるために大切なことです。
例えば、子どもが人生を歩む上でいずれ訪れる面接の機会に礼儀正しい言葉遣いでコミュニケーションをとることは、きっと役立ちます。
大人に対して礼儀正しい言葉をつかうことは、子どもの権利条約「意見を表明する権利」(第11条)にもつながります。

②全員で廊下を歩くときには おしゃべりをしない
先生や学校の人々を尊敬し感謝の気持ちをもって、学級や学校の生活をよりよいものにしようとすることや、様々な集団の中での活動を通して、自分の役割を自覚して集団生活の充実に努めること(道徳科 内容項目C よりよい学校生活、集団生活の充実)
学校では、たくさんの子どもたちが自分の力を最大限に伸ばすために、学んでいます。
廊下を歩くときに大きな声でおしゃべりすると他のクラスの子どもたちの学びを妨害することになります。
全員で廊下を歩くときにおしゃべりをしないことは、秩序を大切にして他の子どもたちが教育を受けていることを大切にすることです。
(児童の権利条約第29条「教育の目的」)。

③もし いじめられたら 先生に知らせる
民主主義の基本である社会正義の実現に努め、公正、公平に振る舞うこと(道徳科 内容項目C 公正,公平,社会正義)、生命ある全てのものをかけがえのないものとして尊重し、大切にすること(道徳科 内容項目D 生命尊重)
子どもは学校で安全に学ぶ権利(教育を受ける権利)があります。
もし、いじめられたら、落ち着いて学習することができなくなってしまいます。
いじめや いやがらせがあったら、だまってないで 先生に伝えることを学級のきまりごとにとして伝えましょう。
先生たちは子どもたちの味方であり、安全に学習できるようにするための義務があります。
(児童の権利条約第2条「差別されない権利」、第6条「生命, 生存及び発達に対する権利」、第28条「教育を受ける権利」)。

必然的領域<学級のあたたかさを創る>を優先する学級経営
学級経営は学習指導と生徒指導の両方の場面で機能します。それゆえに、学級経営は、子どもたちの人権を保障していくために大切な観点です。
なお、学級経営の根底にある必然的領域は、自己と他者の「心と体」を傷つける言動や行動は許さない指導のことを指しており、人権に関する問題を教師が保障をしていくことに寄与する領域です。
この領域が保障されないと、学級の中で暴言などのような他者を傷つける雰囲気が日常化されていき、いじめの問題が起きる可能性が高まる恐れがあります。
子どもたちひとり一人の人権を保障する観点のため、全ての教職員が意識して取り組む必要があるのです。
一人一人を尊重するということは同時に、「自己と他者の人権を侵害する言動・行動」には毅然とした態度で接することも大切です。
学級づくりの基盤は「自己と他者の人格を尊重する言動・行動を増やし、自己と他者の人格を傷つける言動・行動は認めない」ことが必要です。
*毅然とした態度での指導は、「怖さ」を基盤に指導するようなパワーゲーム(どちらが上か力づくで決める方法)ではなく、自己と他者への敬意を根底にすることがポイントです。
全ての教職員が必然的領域を意識していくためには「指導のゆがみ」を出さないことを意識します。
*「指導のゆがみ」とは、同じことをした児童生徒に対して、ある先生は指導しているが、ある先生は指導をしないという状態を指します。
そして、「指導のゆるみ」を出さないことを意識するもとも大切です。
*「指導のゆるみ」とは、同じ先生でも日によって指導が異なっている状態を指します。
こうした必然的領域の指導の重点化が学校で共有されていないと、指導に「ゆがみ」が生じやすくなるため、人権に関わる指導の重要性を全教職員で共通理解することが大切です。

なお、学級経営方針を担任をする4月から教室の前方の目立つところに掲示し、学級集団の中で必然的領域を守ることへの共通理解を継続的に実施しましょう。
学級経営方針は、学習指導や生徒指導の際の根拠にすることで指導のゆるみの防止につながります。
具体的な設定方法は、以下の記事をクリックしてご覧ください。

学級経営方針・学級目標の設定方法について紹介します。
そして、『生徒指導提要(改訂版)』(文部科学省, 2022)において, 子どもが権利の主体であることを前提にした教職員の指導観への転換や子どもの権利条約の理解が必須であることが明示されています。
①差別の禁止:第2条
②児童の最善の利益:第3条
③生命・生存・発達に対する権利:第6条
④意見を表明する権利:第12条
「権利主体」としての子ども観は、日本で慣習化されてきた保護・監護・指導の対象としての捉え方を転換させる役割を担っているといえるでしょう。
参考文献:白松賢『学級経営の教科書』、東洋館出版社、2017.
川原茂雄『子どもの権利条約と生徒指導』,明石書店,2023.
参考資料
こども基本法(令和5年4月1日 施行)
(目的)
第一条 この法律は、日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり、次代の社会を担う全てのこどもが、生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ、心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、その権利の擁護が図られ、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指して、社会全体としてこども施策に取り組むことができるよう、こども施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、及びこども施策の基本となる事項を定めるとともに、こども政策推進会議を設置すること等により、こども施策を総合的に推進することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「こども」とは、心身の発達の過程にある者をいう。
2 この法律において「こども施策」とは、次に掲げる施策その他のこどもに関する施策及びこれと一体的に講ずべき施策をいう。
一 新生児期、乳幼児期、学童期及び思春期の各段階を経て、おとなになるまでの心身の発達の過程を通じて切れ目なく行われるこどもの健やかな成長に対する支援
二 子育てに伴う喜びを実感できる社会の実現に資するため、就労、結婚、妊娠、出産、育児等の各段階に応じて行われる支援
三 家庭における養育環境その他のこどもの養育環境の整備
(基本理念)
第三条 こども施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。
一 全てのこどもについて、個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、差別的取扱いを受けることがないようにすること。
二 全てのこどもについて、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され保護されること、その健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉に係る権利が等しく保障されるとともに、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)の精神にのっとり教育を受ける機会が等しく与えられること。
三 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること。
四 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること。
五 こどもの養育については、家庭を基本として行われ、父母その他の保護者が第一義的責任を有するとの認識の下、これらの者に対してこどもの養育に関し十分な支援を行うとともに、家庭での養育が困難なこどもにはできる限り家庭と同様の養育環境を確保することにより、こどもが心身ともに健やかに育成されるようにすること。
六 家庭や子育てに夢を持ち、子育てに伴う喜びを実感できる社会環境を整備すること