人権教育の推進に関する法令を紹介します。

日本の学校では人権教育を推進しています。しかし、「人権科」のように教科としては位置付けられてはいません。それでは、人権教育を推進していくための根拠とはどのようなものがあるのでしょうか。

この記事では、人権教育を推進していく根拠となる法令などを紹介します。

 

①人権教育を推進していくための法律(目的・定義・基本理念)

 

日本国憲法では、基本的人権の尊重を基本原理の一つとされており、人権教育を推進していく根拠の一つとして、法令が挙げられます。

 

今回は、人権教育を推進する基盤となる、人権教育及び人権啓発に関する法律(2000年12月6日法律第147号)の内容を確認していきます

 

第1条 (目的)この法律は、人権の尊重の緊要性に関する認識の高まり国、地方公共団体及び国民の責務必要な措置を定め、人権の擁護に資することを目的とする。

 

第2条 (定義)この法律において、人権教育とは、人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動をいい、人権啓発とは、国民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する国民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く。)をいう。

 

日本は、人権を尊重をしていくことを国の課題として重く受け止めています。そして、人権の擁護を目的とし、人権教育と人権啓発によって国民に広く普及させることを目指しています。

 

第3条 (基本理念)人権教育及び人権啓発は、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、国民が、その発達段階に応じ、人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう、多様な機会の提供、効果的な手法の採用、国民の自主性の尊重及び実施機関の中立性の確保を旨として行われなければならない。

 

そして、子どもから大人までの幅広い年齢に合わせて、人権尊重の理念の理解や体得に向けた機会を確保することを強調しています。つまり、人権を擁護することは日本社会の目指すべき方向性であり、それらを実現させるために人権教育・人権啓発に関する活動を推進しています。

 

②人権教育を推進していくための法律(責務)

 

第4条 (国の責務)施策の策定、及び実施の責務を有する。

 

第5条 (地方公共団体の責務)施策の策定、及び実施の責務を有する。

 

第4条と第5条には、人権教育・人権啓発に関する活動の実施は、国や地方公共団体の責務であることが明示されています

つまり、行政機関は人権教育を推進していく責務を担っています。

 

第6条 (国民の責務) 国民は、人権尊重の精神の涵養に努めるとともに、人権が尊重される社会の実現に寄与するよう努めなければならない。

 

学校教育は社会の形成に欠かせない営みです。そのため、国民一人一人の人権尊重の精神の涵養に向けた教育活動を実施していくことが大切です。

すなわち、教員や保護者、地域の方々は人権教育を推進していくことが求められています

③人権教育を推進していくための法律(計画・報告・財政)

 

第7条 (基本計画の策定) 国は、人権教育及び人権啓発に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、人権教育及び人権啓発に関する基本的な計画を策定しなければならない。 

 

第8条 (年次報告) 政府は、毎年、国会に、政府が講じた人権教育及び人権啓発に関する施策についての報告を提出しなければならない。

 

第9条 (財政上の措置)国は、人権教育及び人権啓発に関する施策を実施する地方公共団体に対し、当該施策に係る事業の委託その他の方法により、財政上の措置を講ずることができる。

 

人権教育を推進していくための手立てとして、計画を立てることや、その成果を確認していくことが第7条と第8条に明示されています。そして、その計画を前に進めるために財政の措置を講ずることも明示されています(第9条)。

なお、第7条の規定に基づき、2002年に「人権教育・啓発のための基本計画」が閣議決定されました。

 

上記の計画において、人権教育の意義目的は以下のように明示されています。

人権教育とは,「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動」を意味し(人権教育・啓発推進法第2条),「国民が,その発達段階に応じ,人権尊重の理念に対する理解を深め,これを体得することができるよう」にすることを旨としており(同法第3条),日本国憲法及び教育基本法並びに国際人権規約,児童の権利に関する条約等の精神に則り,基本的人権の尊重の精神が正しく身に付くよう,地域の実情を踏まえつつ,学校教育及び社会教育を通じて推進される。
学校教育については,それぞれの学校種の教育目的や目標の実現を目指して,自ら学び自ら考える力や豊かな人間性などを培う教育活動を組織的・計画的に実施するものであり,こうした学校の教育活動全体を通じ,幼児児童生徒,学生の発達段階に応じて,人権尊重の意識を高める教育を行っていくこととなる。

 

「人権教育及び人権啓発に関する法律」に基づき、学校教育を通して実施していく計画が立てられていることが確認できます。

さらに、「政府は,人権教育・啓発の総合的かつ計画的な推進を図るため,法務省及び文部科学省を中心とする関係各府省庁の緊密な連携の下に本基本計画を推進する」と明示されています。

 

こうした計画に基づき、文部科学省は「人権教育の指導方法等の在り方について」(「第3次とりまとめ」)を策定し、各都道府県教育委員会や各学校は「第3次とりまとめ」を参照に人権教育を推進しています。

 

人権教育は「人権教育及び人権啓発に関する法律」「人権教育・啓発のための基本計画」「人権教育の指導方法等の在り方について(第3次とりまとめ)」と推進されてきました。

 

人権教育は、「日本国憲法」の基本原理の一つである基本的人権の尊重の理念に基づき、法律によって規定され、行政機関が計画的に推進している教育活動だといえます。

人権教育に関する具体的な授業実践については、以下の記事を参考にしていただけると幸いです。

 

「自他を認めるための授業実践「震災と人権」の具体例を紹介します」

 

参考資料(リンク先も添付しておきます)

「人権教育及び人権啓発に関する法律」

「人権教育・啓発のための基本計画」

「人権教育の指導方法等の在り方について(第3次とりまとめ)」

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