学級の一番初めの姿は、同学年の子どもたちが寄り集まった集団にすぎません。
そして、その集団は多様な個性あふれる子どもたちによって形成されています。
学級経営は子どもたちがよりよく成長していくための教育活動の核です。
そのため、学級経営を実践していくためには、子どもたちの人権を尊重するための教師が設定する学級経営方針の提示すること。
そして、よりよい成長を目指すために子どもたちが学級目標を設定することが大切です。
なお、学級経営方針と学級目標は似ていますが、明確に区別することができます。
それは、教師が設定するのか、それとも子どもたちが合意形成して設定していくのかということに分類できます。
この記事では、学級経営方針や学級目標の設定方法について紹介します。
学級経営方針のレシピ
① 学級経営方針は教師が設定する
学級経営方針は教師が子どもたちとの出会いの前に設定しておくものです。そして、4月の学級開きの際に必ず伝えるようにしましょう。つまり、学級経営方針は、学級経営の必然的領域であり、人権を尊重する視点で設定しておく必要があります。
なお、学級経営を整理していくために、学級経営法方針を提示することは重要な意味をもちます。なぜなら、学級経営方針とは、教師が必然的領域を守るために掲げる「教師自身の望ましい行動」だからです。
「行動のABC」では、Behavior(行動)は、目標や改善への指針になるものです。従って、学級経営の方向性として具体的な行動を示すことによって、学級全体で共有し、強化することにつながります。
「行動のABC」については、「問題行動を減らして望ましい行動を伸ばしていくための指導方法について紹介します。」をご覧ください。
わたしの場合は以下の3点を学級経営方針として設定し、教室の目立つところに出会った日から送り出す日まで掲示を続けています。
① みんなが安心して学ぶ機会を大切にします
② 失敗したとしても反省する人を応援します
③ いじめは絶対に許しません
① みんなが安心して学ぶ機会を大切にします
教育基本法 第6条法律に定める学校は、公の性質を有するものであって、国、地方公共団体及び法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
2 前項の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。この場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならない。
1 締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成する 中略2 締約国は、学校の規律が児童の人間の尊厳に適合する方法で及びこの条約に従って運用されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。
② 失敗したとしても反省する人を応援します
児童の権利条約 第29条
1 締約国は、児童の教育が次のことを指向すべきことに同意する。
(a) 児童の人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。(b) 人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成すること。(c) 児童の父母、児童の文化的同一性、言語及び価値観、児童の居住国及び出身国の国民的価値観並びに自己の文明と異なる文明に対する尊重を育成すること。(d) すべての人民の間の、種族的、国民的及び宗教的集団の間の並びに原住民である者の理解、平和、寛容、両性の平等及び友好の精神に従い、自由な社会における責任ある生活のために児童に準備させること。(e) 自然環境の尊重を育成すること。
2 この条又は前条のいかなる規定も、個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する自由を妨げるものと解してはならない。ただし、常に、1に定める原則が遵守されること及び当該教育機関において行われる教育が国によって定められる最低限度の基準に適合することを条件とする。
③ いじめは絶対に許しません
子どもたちの人権を尊重し、安心して過ごせる場と対極なことがいじめ問題です。
子どもたちの人権を守るためにいじめ問題には毅然と立ち向かう必要があります。そして、組織的に対応をしていくことが大切です。
いじめ問題は他者への人権侵害です。学級経営方針では、学校が差別やいじめ問題に立ち向かう準備ができていることを伝えることが大切です。
いじめ問題を是正することは、法律にも明示されているとともに、子どもたちと教師の信頼関係を築く上でも重要なことです。
教職員は学校全体でいじめ問題を組織的に対応することが法律にも位置付けられています。
いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)
(基本理念)
第三条 いじめの防止等のための対策は、いじめが全ての児童等に関係する問題であることに鑑み、児童等が安心して学習その他の活動に取り組むことができるよう、学校の内外を問わずいじめが行われなくなるようにすることを旨として行われなければならない。
2 いじめの防止等のための対策は、全ての児童等がいじめを行わず、及び他の児童等に対して行われるいじめを認識しながらこれを放置することがないようにするため、いじめが児童等の心身に及ぼす影響その他のいじめの問題に関する児童等の理解を深めることを旨として行われなければならない。
3 いじめの防止等のための対策は、いじめを受けた児童等の生命及び心身を保護することが特に重要であることを認識しつつ、国、地方公共団体、学校、地域住民、家庭その他の関係者の連携の下、いじめの問題を克服することを目指して行われなければならない。(いじめの禁止)
第四条 児童等は、いじめを行ってはならない。(学校及び学校の教職員の責務)
第八条 学校及び学校の教職員は、基本理念にのっとり、当該学校に在籍する児童等の保護者、地域住民、児童相談所その他の関係者との連携を図りつつ、学校全体でいじめの防止及び早期発見に取り組むとともに、当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。
児童の権利に関する条約
第2条
1 締約国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。
2 締約国は、児童がその父母、法定保護者又は家族の構成員の地位、活動、表明した意見又は信念によるあらゆる形態の差別又は処罰から保護されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。
いじめが重大な人権侵害であり、学級の中でいじめは絶対に許さないという姿勢を子どもたちとの出会いの場でしっかりと伝えることが大切です。なお、他の条文については、文部科学省HP「いじめ防止対策推進法」をご覧ください。
① みんなが安心して学ぶ機会を大切にします
② 失敗したとしても反省する人を応援します
③ いじめは絶対に許しません
② 学級経営方針を基にぶれない指導をする
児童生徒が、多くの時間を一つの空間(教室)で過ごしているとその個性が対立するときがあります。
子どもたちが、お互いの意見が異なり、対立することは当然のことです。人はそれぞれに違う存在だからです。
大切なことは、学級経営方針で表明したことをあらゆる教育活動の場で実践していくことです。
例えば、教室で授業中に立ち歩いていたりとします。
教師は、みんなが安心して学ぶ機会を守るためにも授業中の学習規律を整える必要があります。そのため、その子どもには個別指導をする必要性があります。
そして、個別指導の際には失敗したとしても反省から次に活かすという観点から、どうすればよかったのかを具体例を示し、成長を促すように指導をしていきます。
このように、学級経営方針は、あらゆる場面での指導の方針となるものです。この積み重ねによって、学級の風土が構築されてきます。
③ 学級経営方針は教室内の目立つところに掲示する
子どもたちが学級経営方針を理解していくためには、繰り返し指導することが大切です。
そのため、担任をする4月から教室の前方の目立つところに掲示をしましょう。そして、どうして教師が素晴らしいと思っているのかを説明する際の根拠にしましょう。
このことによって、子どもたちの人権を尊重するための指導を理論的に説明することができるようになります。
だからこそ、日常的に目にする場所に「学級経営方針」は掲示することが大切です。
わたしの場合は、黒板の上や黒板の横に掲示していました(水色で表示)。
とりわけ、低学年の子どもたちには、子どもの素晴らしい行動を丁寧に説明する必要があります。具体的な説明や事例については、「小学1年生の学級経営のコツを紹介します」をご覧ください。
④ 学級経営方針は保護者会で説明しましょう。
学級目標のレシピ
① 課題を把握する
② 特別活動の学級活動で話合う
③ 学級目標は教室内の目立つところに掲示する
子どもたちが学級目標に向けて成長していくためには、日常生活と連動させて指導することが大切です。
そのため、学級目標は教室の後方の目立つところに掲示をしましょう。こうすることによって、ランドセルを取りに行く際に日常的に目にするようになります。そして、学級目標は子どもたちの成長を促す指導をする際の根拠にしましょう。
④ 学級目標の達成に近づいたら学級全体で共有する
学級目標の達成に向けての行動ができた場合は、学級全体の前で目標に近づいたことを共有しましょう。
応用行動分析で「行動のABC」という考え方があります。
A=「行動の前」、B=「行動」、C=「行動の後」
これを図解にすると、以下のようになります。
A行動の前 →B 行動 →C行動の後
教師はどうして「C」になったのかを子どもにしっかりと説明することが大切です。
そのためには、「B」を学級経営方針や、学級目標を学級全体で共有する必要があります。どのような行動が望ましいのかを示すことは、学級経営において非常に重要なポイントです。
また、子どもたちが「B」と学級経営方針や学級目標とのズレが生じた際の状況や理由を吟味することは、「B」への「代替行動」を考えるための材料になります。すなわち、「B」という行動の土台があることで、学級経営を整える方策が見えてくるようになってきます。
「B」に向けて、何が大切で何が良くなかったのかを、子どもたちと教師が共通理解することによって、学級の風土が育ってきます。このように「B」に人権教育の理念を反映させて、必然的領域を守っていくことは、学級の人権を尊重し、集団として協働していくことを学習者は学ぶことにつながっていきます。
子どもたちがみんなで設定した学級目標の実現に向けて、教師の意識や言葉かけは大切な意味をもっているのです。
*2023年8月30日に本を出版することになったことを報告させていただきます。