自他を認めるための授業実践「震災と人権」の具体例を紹介します

この記事では、「居心地のよい教室」を構築していくために、普遍的な人権の概念や多様性の重要性について学ぶ、ランキング型の参加型人権学習「震災と人権」について紹介します。

 

参加型人権学習「震災と人権」についての解説

 

結論から伝えます。参加型人権学習「震災と人権」の学習成果は、四点あります。

 

 

一つ目は、多様性を尊重するために受容や合意形成をする重要性に気付くこと。

 

 

二つ目は、日常生活で他者を尊重するために自己自身を省察・観想すること

 

 

三つ目は、人権は世界人権宣言によって遵守されるべき平等に保障される権利であることを知ること。

 

 

四つ目は、災害によって生命を奪われる等の人権被害を被った方々の悲痛な心情を想像すること。

 

 
当該授業実践は、普遍的な人権の概念を学ぶことや, 他者の痛みを想像し, 自他を尊重していくことに波及効果があることが実証されています(河野辺, 2017)。

 

参加型人権学習やランキング型の学習活動は、国際的な研究成果や国内の人権教育の研究成果を基に、文部科学省が公的に推奨しています。

 

 

さらに、教育委員会も推奨しており、学校教育で児童・生徒に実践することはもちろんのこと、社会教育や家庭教育としても実践する汎用性をもっています。

 

 

 
ランキング型の参加型人権学習「震災と人権」人権教育に関する研究成果の賜物です。

 

だからこそ、「歩み寄る教室」を構築する上で実践することをおすすめします。

 

以下に主な学習活動を示します。

  「震災と人権」の主な学習活動
東日本大震災の避難所生活を踏まえて, 9つの必要とされたこと(生命, 安全, 飲料水・食料, 情報, 歯磨き・入浴, プライバシー, 住宅, 仕事, 人としての尊厳)カードを個人で順位付け
9つの必要とされたことをダイヤモンド型にするために, グループでの合意形成に向けた順位付け
グループごとに順位付けした結果と理由を学級全体に向けて発表
「世界人権宣言」を確認すると共に,「価値観の多様性を認めること」,「グループで合意を形成する際に必要な資質・能力を身に付けること」の意義を踏まえて, 学習を振り返る

 

 

自他を認めるための授業 実践編

 

①場面(東日本大震災の避難所生活を踏まえて、9つの必要とされたこと(生命、安全、 飲料水・食料、情報、歯磨き・入浴、プライバシー、住宅、仕事、人としての尊厳)カードを個人で順位付け)では、ほとんどの児童が「生命」と「安全」を上位に位置づけていました。

 

 

②場面(9つの必要とされたことをダイヤモンド型にするために、グループでの合意形成に向けた順位付け)では、他者と合意していくために自分の意見を他者に説明した。

 

 
例えば 情報を上位に順位付けるために「お母さんがいなくて心配じゃない。絶対心配だと思うよ」と発言し、情報によって家族の安否を優先させることを主張している姿が確認できます。

 

 

 ③場面(グループごとに順位付けした結果と理由を学級全体に向けて発表)では、

 

グループで共有した意見に合意することができなかった場合の行動に対して、

 

「大人数、クラスで決めたことも大切だと思うんですけど、 個人的にそれを求めている人がいるから、 取り入れつつもう一回見直す」と発言し、

 

少数者を配慮することを主張する姿が確認できました。

 

 ④場面(「世界人権宣言」を確認すると共に、「価値観の多様性を認めること」、「グループで合意を形成する際に必要な資質・能力を身に付けること」の意義を踏まえて、学習を振り返る)において、

 

児童は「他者の意見はとても大事なもので、自分と同じく大切なものだと思いました」と振り返り、他者を自分と同じように尊重するべき存在であることに言及しました。

 

上記のように、ランキング型の参加型人権学習によって、学級の中において、多様性を尊重するために受容や合意形成をする重要性に気付いている姿が確認できます。

 

 
「歩み寄る教室」を構築するためには、多様性の尊重していくために受容することの重要性に気付くことから始まります。
 
 
授業の省察
 

私たち「人間」が「人間らしく生きる」ために、人権という普遍的な概念が世界で共通理解されました。

 

歴史的な震災という災害を通して、被災地や被災者が必要とする生活上のニーズが人権と深く結びついています。

 

そして、「人権」はどれも大切ですが、個人が自分らしく生きるために強いて順序をつけようとすれば、優先順位をつけることが可能なのです。

 

 

すなわち、「権利の優先性」を学ぶことにつながります。

 

そして、本授業実践で重要なことは、自分と他者の「ランキング」(優先順位)を比較することによって、自他の相違に気付くことです。

 

 

 

それぞれの価値観や事情が違う人間なのであれば、それらを尊重していくためにどうしたらよいのかを思考錯誤することなのです。

 

 

 

 
「歩み寄る」ためにどのような行動が必要なのかということを子どもたちと先生が一緒に考えていくことなのです。

以下に、当該授業の学習成果を紹介します。

 

「私は今日の学習で気づいたり、考えたりしたことがいっぱいあります。

 

今日の学習で自分のことをふりかえってみたときに私は、いつも自分のことだけを考えていました。

 

でもこれからは相手がどう思っているのか、相手はなぜそう思っているのかを考えて行動したいと思います。

 

グループ活動で気づいたことは、みんなそれぞれちがう意見をもっている人だと思いました。

 

CさんやBさんの考え方を見たときに、Cさんは仕事が一番大切だといっていました。

 

でも、私はそれの理由もわからずに自分の方が優先だと書いていました。

 

でも理由を見たとたんに、そうなんだなあと思いました。

 

これからの私は人の意見をまず聞いて行動したいと思います。」

「グループ活動で私以外の人も意見が似ていた。

 

グループの人は、ダイヤモンド・ランキングを決めた理由同じよりにていた。

 

地震や津波で亡くなってしまった人の家族や近所の人もとっても悲しかったと思います。

 

私も、もし、津波や地震が起きたら、家族が亡くなったら、わたしはとても悲しいです。大切なことは、人それぞれちがう。」

 

本実践を通して、「自分と他者を認めるために自分自身を振り返ること」、「歩み寄るために必要なことを自分自身で模索すること」、「人の痛みを想像する人権感覚を養うこと」を学んでいる姿が確認できます。

 

何よりも学習者自身が、自分で導いた答えだからこそ価値が実ります。本研究の知見が「歩み寄る教室」を構築する一助になることを願っています。

 

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